監督の“ひとり言”2017?広島カープの二軍監督は「水本勝己」という男が務めているが、水本はこの27年間、多くの“奇跡”を目撃してきた。練習が終わったばかりの二軍グラウドには誰もいないが、やがて1人、また1人と選手が姿を現す。「僕が嬉しいのは、コーチも誰もいないのに練習できるようになってきたこと。」最近は「自分で考えて練習できない」選手が増えてきた。が、新井貴浩も黒田博樹も、最初はみんな「ここで練習しない」ところからスタートしている。だが、そこから何かに気づいて、自分の意思で行動に移すかどうかが大切だと水本二軍監督は言う。■新井貴浩新井貴浩は“奇跡の男”と言われる。カープが25年ぶりに優勝した昨シーズン、39歳にして通算2000本安打を達成し、リーグMVPを獲得した。ただ、広島工では無名。駒大時代も4年間でホームランはたった2本だけ。しかも、うち1本は猛烈な風によってスタンドまで運んでもらった“参考記録”だという。新井貴浩の奇跡は、赤いユニホームを着てから始まったのだ。そもそも、新井がドラフト6位にギリギリ滑り込んでプロ野球選手になれたことが奇跡である。その新井が「将来の4番は俺だ」「空に向かって打つ」と自分の可能性を信じて必死に練習し、苦しんでいた当時…水本は、ブルペン捕手という立場ながら、毎朝、バッティングピッチャーを務めた。いわば管轄外の仕事だが、大きくて不器用な打者のために、水本は汗を惜しまなかったのだ。■黒田博樹昨シーズン限りで引退した黒田博樹も高校時代、控え投手だったというのはよく知られている。まだメジャーリーガーになる前の黒田について、水本には忘れられない光景がある。ある年の福岡での試合、先発した黒田は逆転KOを食らった。その夜、黒田は水本とともに食事に出た帰り道、コンビニに野球雑誌を見つけた。その野球雑誌は巻末に子供やアマチュアなどへ向けた野球教室の案内が載っていたのだが、黒田は突然、そこに電話をかけたという。「『カープの黒田です。なんでもいいから教えて欲しい』って言うんですよ。あとから聞いたら向こうの人もびっくりして、冗談かと思ったと言ってましたけど……」今やレジェンドとなった男が熱く、思いつめた夜である。■水本勝己二軍監督の奇跡「僕らは、人は何かのきっかけで変わるというのを黒田や新井に見せてもらっているんですよ。」「あいつらも最初は二軍のグランドにいた。そこから色々な人に出会って、今がある。」水本二軍監督は、これまで多くのプロ野球選手の奇跡と出会ってきたが、そういうこの人も、じつは“奇跡の人”と呼ばれている。水本勝己は、倉敷工からドラフト外、テストを経て入団したが、わずか2年でユニホームを脱いだ。一軍の舞台は1度も踏めなかったが…すべてが始まったのは、裏方であるブルペン捕手となってからだった。当時、投手陣の重鎮だった北別府学のボールを受けていると、200勝投手は途中でボールをたたきつけて、ピッチングを止めてしまった。「もうええ! 止めや、止めや!」水本が捕る「捕球音」が良くなかったのが原因で、そういうことが度々あった。ところが、現役の捕手が受けている時は、たとえ捕球音が良くなくても北別府は何も言わなかった。 なぜ俺にだけ厳しいんだ…ある時、勇気を振り絞って北別府に聞いてみたら、厳しいアドバイスが返ってきた。『俺が投げている時にこいつらが打ってくれるかもしれないし、それで勝ち星がつくかもしれない。そういう奴らには頑張ってくれと言うしかない。』『でもお前は違う。ブルペン捕手としてお金をもらっているプロなんだから。いい音鳴らして、ピッチャーに気持ち良く投げてもらうのがお前の仕事だ。』北別府の言葉は、今も強く心に残っている。水本は、それからは歴代エースに愛されるブルペン捕手となり、誰にでも率直にものが言える人間性も買われ、やがてコーチ補佐、ブルペンコーチとなり、昨年、ついに二軍監督となった。そして、今年、掛布雅之、小笠原道大ら元スター選手が他球団の二軍監督として名を連ねる中、水本のカープはウエスタン・リーグを制覇した。「ブルペン捕手だった僕が二軍の監督をやるっていうのは、世の中から見れば奇跡に近いと思うんですよ。」もし北別府から厳しいアドバイスを受けていなかったら…もし北別府から受けた厳しいアドバイスを自分の糧にしていなかったら…明らかに、今の水本二軍監督の奇跡はなかったであろう。 決してエリートではない男たちが汗とともに奇跡を起こす。ベタで、泥臭くて、恥ずかしくなってしまいそうなストーリーが、そんな伝統が広島カープにはある。二軍に息づく「汗を惜しまない風土」が、今のカープの強さにつながっていると、私は思う。P.S.人は、人生の節々で色んな人と出会う。そして色んな人から影響を受け、豊かな人間性を手にしていくのだが…自分を変える必要がある時は、必ず「強い心」が必要だ。私は、少年野球を通じて、一人でも多く「強く逞しい心」が持てるよう選手達を鍛えていきたいと思っている。(^_^)By 平山
